映画『レディー加賀』雑賀俊朗監督に聞く映画の見どころと加賀の魅力

映画『レディー加賀』雑賀俊朗監督に聞く映画の見どころと加賀の魅力

プロフィール

雑賀さいが俊朗としろう映画監督

福岡県出身。早稲田大学卒業後、サラリーマンを経て泉放送制作に入社。ディレクターやプロデューサーを経験。 2001年「クリスマス・イヴ」(GAGA)で監督デビュー。 鹿児島の遠泳を題材にした「チェスト!」(主演・松下奈緒)は、第8回角川エンジェル大賞を受賞し、2008年香港フィルムマートジャパンプレミアムの日本代表作品に選出された。 石川県を舞台にした作品には、アマチュアオーケストラの奮闘を描いた2013年公開の『リトル・マエストラ』 (主演・有村架純―上海国際映画祭日本映画週間正式招待) アルコール性認知症の母の過去と向き合う3人姉妹を描いた2016年公開の『カノン』 (主演・比嘉愛未―中国のアカデミー賞と言われる金鶏百華国際映画祭にて、最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀女優賞の3冠を受賞)などがある。

雑賀俊朗 監督

お見舞い

この度の能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。 『旅するオンラインショップjac(ジャック)』、これからご紹介する映画『レディ加賀』ともに、石川県を中心とする北陸の皆さまの暖かいご協力で完成いたしました。 北陸は私たちにとっても特別な場所であり、被災された皆様のご心労やご不便を考えると、本当に心が痛みます。 「映画「レディ加賀」も微力ながら石川県を応援すべく、製作委員会の収入から5%を義援金に充てる事を決めました」(雑賀俊朗監督)
被災地の一日も早い復興を心より願っております。

映画『レディ加賀』

公式サイト
https://ladykaga-movie.com/

2024年2月2日(金)石川県先行公開

2024年2月9日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

映画『レディ加賀』

インタビューは2023年12月23日に行われました。インタビュー当日の状況のままお伝えします。
2024年2月9日から全国ロードショーが始まる『レディ加賀』。 加賀温泉の旅館の新米女将たちがタップダンスで加賀温泉を盛り上げていくというストーリーです。 温泉旅館とタップダンス。この異色の取り合わせが海外からも注目を浴びています。 作品誕生のきっかけ、加賀温泉の魅力、石川県とのかかわりなどを雑賀俊朗監督に伺いました。

<聞き手 jac(ジャック)金沢営業マネージャー 本谷ゆき美>

9か月の大特訓で誕生
世界が注目する和風タップダンス

── まもなく上映開始ですが、今はどんなことに忙しいですか?

雑賀
プロモーションのためにラジオやテレビに出演したり、雑誌の取材を受けたりしています。金沢での仕事も多く、金沢と東京を行ったり来たりという状態です。その合間を縫って、次の作品の脚本書いたり、企画書をつくったりしています。

── 映画が完成してもお忙しいんですね。それでは、さっそくですが、まずは『レディ加賀』の見どころから教えてください。

雑賀
沢山あるのですが(笑)。絞り込むと4つですかね。一つは予告でも紹介しているラストシーンの和風タップダンス。新米女将たちが着物姿で見事なタップダンスを披露します。昔から和と洋をミックスしたダンスを撮ってみたいと思っていたのですが、やっと、この作品で実現できました。

── シルクロード国際映画祭ではスタンディングオベーションになったと伺っていますが。

雑賀
和服でタップというアイデアが面白いと言っていただけました。うれしかったですね。

── どうしてタップダンスだったのですか?

雑賀
世界的な観点からすると、レトロな感覚はありますが、やはりタップダンスは世界の踊りの中でもエンターティメントの王道で、それとレトロな和服を加えることによって、新しいものになると思いました。当然ですが、主演の小芝風花さんには、タップダンスの経験はありません。そこで9か月間の特訓をお願いしました。

── それだけの期間でマスターできるものなのでしょうか。

雑賀
彼女は、芸能界に入る前はフィギュア・スケートの選手。ジュニアランキングで、結構、いいところまで行っていたそうですよ。だから体幹がしっかりしていて、ダンス覚えるのも早いんでしょうね。あるベテラン女優さんが半年かかってマスターしたダンスを、小芝さんはたったの一週間でできるようになったと指導の先生が驚いていました。

── 小芝さんの、そんな経歴は全然知りませんでした。

雑賀
あとは小芝さんの着物をじっくり見て欲しいですね。加賀市のある呉服屋さんが、びっくりするほど高価な加賀友禅を貸してくれたのです。着物好きな人なら京友禅との違いを楽しんだりもできると思います。

── ダンスシーンはいろいろな面から楽しめそうですね。

女将の世界と「母子」の愛情

── 二つ目の見どころは、どこでしょうか。

雑賀
女将の世界ですね。女将って、女社長のようであり、ちょっと違うような気もする。「金沢のコロンボ」というテレビ番組を制作していた時、女将さんの世界観に触れる機会が多く、いつか女将の世界を描きたいと思うようになっていました。実際、「女将さんの言葉」というテレビ番組の企画をたて、いろいろな女将さんにインタビューしたり、本を読んだりしていたこともあります。それが、今回、すごく役立ったし、わりとリアルに描けたかなと思っています。

メインの話は、タップダンスと女将の世界なのですが、それは、主役の由香を1人前の女将に育てるために厳しく接する「母と子の話」でもあります。これが3つ目です。愛情があるが故の厳しさ。そのあたりの親子の愛の物語も楽しんでいただけると思います。

── 盛りだくさんですね。4つ目の見どころを教えて下さい。

雑賀
コロナ禍で会いたい人に会えない、やりたいことができないなど、様々な制約があったので、みんなで集まる楽しさや一致団結して何かに取り組む。そういう熱さを久しぶりに描いてみました。

1枚のポスターとの出会いが
『レディ加賀』の制作につながった

── 『レディ加賀』をつくったきっかけを教えてください。

雑賀
2012年、東日本大震災の翌年に石川県の志賀町と金沢で『リトルマエストラ』という映画を撮ったのですが、その時、印象的なポスターを見たことです。制作は「レディー・カガ」プロジェクト。中心メンバーは加賀温泉の旅館の組合です。震災の沈滞ムードを打破したり、金沢の新幹線開業に向けて加賀温泉をPRすることなどを目的に、2011年に立ち上がったと聞いています。

── 確かに印象的なポスターでしたね。県内ではテレビCMも随分と流れていました。

雑賀
ポスターも動画も女将さんたちが駅前で並んでいるだけなのですが、自分には女将さんたちが踊っているように見えました。この時、和服で女将さんたちが踊っている映画を作れたら面白いなと思ったのです。それで、数年前に、たまたま加賀市さんとご縁ができて、『レディ加賀』の映画を撮りたいと話したところ、一緒にやろうということになったのです。

── 10年越しの企画が実現したというわけですね。制作にあたって石川県には、何回くらい来られましたか?

雑賀
ロケ地を決めたり、商工会議所など地元の人たちとどういう映画にしたいか話しあったり、市役所と打ちあわせをしたり……。映画を作るのにだいたい3年くらいかかるのですが、その間、30回くらいは足を運んだと思います。

── 来るたびに新しい発見があると思いますが、加賀温泉のどんなところに魅力を感じましたか。

雑賀
加賀温泉には、山代温泉、山中温泉、片山津温泉の3つがありますが、それぞれが個性的なことですね。山代温泉は、「ザ温泉街」。重量感というかどっしりしてますね。山中温泉はアーティスティックな橋がいくつもかかっている。中でも草月流家元勅使河原宏さんがデザインした「あやとりはし」には強く魅了されました。そして片山津温泉は霊峰白山を臨む湖のほとりに温泉街が広がっている。どの温泉も甲乙つけがたい。映画でも、全部の温泉で撮影しました。

── 実際、温泉は結構入りましたか?

雑賀
いつもは撮影が始まると入る暇はありませんが、今回は、朝・ロケ後・寝る前と1日3回入りました。雑賀の映画史上初めての出来事でした。また準備期間に、ロケ地を探したり、台本を書いたりする時にはたっぷり入りました。リフレッシュできるし、いいアイデアも浮かんできました。温泉の効果を実感できましたね。

オーケストラ アンサンブル金沢との出会い

── 今回の「レディ加賀」、「リトルマエストラ」「カノン」と石川県で撮影した映画が多いのですが、石川県と縁ができたきっかけは何でしょうか。

雑賀
オーケストラを描いた「リトルマエストラ」ですね。当初は都内のオーケストラに協力をお願いしようと思っていたのですが、当時、「のだめカンタービレ」をきっかけにクラシックブームが巻き起こり、どのオーケストラも手一杯。それでピアニストのカミさんや、音楽に詳しい知人に相談すると、みんな口をそろえて「オーケストラ アンサンブル金沢」が今面白いと教えてくれました。

── NHKの大河ドラマ「利家とまつ」の主題歌の演奏も手掛けていましたよね。

雑賀
さっそく金沢までお願いに行くと、協力しましょうと快い返事を頂けました。それで、石川県で撮影することになったのです。しかし、地の利がないので、どこで撮影していいのかも分からない。4日かけて石川県中を自動車でぐるりと回り、出会ったのが志賀町。風情ある港町で、ここで撮ろうと即決しました。ここからですね。石川県との縁が生まれたのは。

── これからも、石川県で映画を撮る予定ですか?

雑賀
はい。いずれは新石川三部作も制作したいと思ってます。

── 最後にこの映画は、どんな人に見てもらいたいですか。

雑賀
みんなに見てもらいたいのですが、特に見てもらいたいのはコロナで傷ついた人たち。これからV字回復していこうという人達を応援できればと思っています。それから、ちょっと頑張っている女性。女将さんたちの生き方をぜひ見てもらいたい。うちは姉二人の女系家族だったので、女性を応援したくなっちゃうんですよね。

── それで女性が頑張る作品が多いのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。